1982年に世界で初めて故眞坂信夫先生が行なった「歯根破折歯の接着修復延命療法」ですが、当時としてはあまり注目されていませんでした。日本の健康保険の治療には「割れている歯を保存する」という考え方もなかったし、方法もなかったからです。
その後多くの実験や論文をベースとして一部の臨床家の中でこの「接着修復延命療法」は普及してきました。
しかし多くの臨床医の間では否定的な時期もありました。2015年に刊行された「歯牙破折の分類、審査、診断、マネージメント 石井宏監修、著、デンタルダイヤモンド社」には(詳細は省きますが)「開業医がやるような治療ではない」との記述があります。多くの論文、研究を基にした議論が展開されており、この内容については100%納得できるものではありませんが正しい記述も多くあり参考になります。
また、歯内療法の専門書「Ricucci, j. F.Siqueirira Jr リクッチのエンドドントロジー 411 クイントエッセンス.東京. 2017」でも「垂直破折により障害を受けた歯の予後は不良であると見なすべきである。」との記載があります。
上記2冊はいずれも否定的な見方をしています。
ただ、最近では基礎的な研究に加え、多くの臨床例に支えられた肯定的、確信的な著作が増えています。手元にある5〜6冊の成書にはいずれも肯定的な記述がなされています。その中で歯科大学で学生の教育に現在使われている2冊の歯内療法学の教科書(最新版)の内容をご紹介します。
「エンドドンティクス 第6版 215 永末書店 2022年」
垂直性歯根破折は早期に破折を検出できた場合には、接着性材料で補強することにより破折歯を救済できることもある。
「歯内治療学 第5版 201 医歯薬出版株式会社 2021年」
垂直性歯根破折は当該部を歯科用実体顕微鏡下で接着し、感染根管治療を行うことで延命処置を図ることが可能である。また近年接着再植法の進歩によって陳旧的な破折ではなく、新鮮な破折であれば適応症となることもありうる。
つまり、最近の歯科医師は「歯根破折」=「接着による保存」という教育を受けています。
開業医の先生は最新の教科書を読む機会もないわけですからこれらの事実をご存知ない方が多いはずです。ただ一部の先生はこの教科書を読んで「そうなんだ、試しにやってみよう」という挑戦の精神で施術なさる方もいらっしゃるようです。初めての治療に挑戦したとて成功するわけでもなく、ましてその後のフォローができるわけでもありません。
歯根破折歯の治療でお悩みの患者様方には「ぜひ」十分に経験のある先生のもとでの治療をお勧めいたします。