「噛みしめ」は歯根破折の一つの原因になると考えています。「歯軋り、噛みしめ、タッピング:カチカチと歯を鳴らす」の3つをまとめて「ブラキシズム」と呼んでいます。ブラキシズムのうち噛みしめだけが歯根破折に関係していると考えています。
ブラキシズムを起こすタイミングは2つあります。
1.覚醒時(目覚めている、意識のある時)
2.就寝時(寝ている、意識のない時)です。
覚醒時のブラキシズムは、長い間に習慣として身につけてしまった「くせ」と考えられています。一方就寝時のブラキシズムは「睡眠関連運動異常症」に分類されますが、未だ不明な点が多く「大脳上位中枢の興奮に由来するもので中枢性に引き起こされる」としかわかっていません。要するに「よくわかっていない!」わけです。原因はよくわかっていませんが、噛みしめに至るプロセスなどは解明されており、いつ、どんなふうに起きるのかは解明されています。これらについてはまた別建てでお話ししたいと思います。
特に就寝時にブラキシズムを起こす原因の一つとして「薬物」があります。ある種の薬を飲むと「今まで経験しなかったブラキシズム」を突如として起こすようになります。これを薬物誘発性異常運動としての(二次性の)ブラキシズムと呼びます。特に「噛みしめ」が顕著に起こります。実際に「ある薬物を服用するようになって」夜間就寝時の噛みしめが頻繁に起こり、「ついに歯根破折」を起こして来院した症例を経験しました。
これらの現象を起こす薬剤は多く報告されています。当院で経験した症例に使用された薬剤は「抗精神薬」の類です。特に「SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬:精神神経科で鬱症状に処方する薬剤」でした。この傾向が続くようならば、処方医と話をして別系統の薬に変えてもらうか、やめてもらうかが本来ですが、必要あっての処方ですから症状が改善するまでは夜間就寝時(または覚醒時でも)マウスピースの装着で破折を防止するしかないと思います。
この逆に、夜間就寝時の噛みしめが楽になった、起こりにくくなるような薬剤もあります。胃潰瘍、十二指腸潰瘍または逆流性食道炎に処方される「プロトンポンプ阻害薬」です。2021年3月の学会発表(下記文献)がありました。従来から「逆流性食道炎」と噛みしめの関係は指摘されています。就寝時の胃酸の逆流を緩和(薄める)するために、生体が「噛み締めを行って唾液の分泌を促す」ためと言われています。
このように、噛み締めが「処方されている薬物」により引き起こされたり、逆に目的外の処方薬で楽になる可能性があります。噛み締めが辛い、または口腔内に治療が必要な現象が起きている患者様方は「十分な知識のある歯科医」と相談の上、消化器内科での治療や、精神神経科医と話をしていただくなどで、お楽になる可能性があります。原因はともかく、歯軋り、噛みしめなどがお辛い場合はご相談ください。初診の患者様は「初診ネット予約」から、再診の患者様は「再診メール予約」から承ります。