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歯根破折を知る

割れた歯がなぜ保存できるのか?破折歯の接着治療は専門医院へ 2.

破折した歯根の治療について 

現在、世界中で歯根破折を起こした歯牙は「直ちに抜歯」ということになっています。健康保険が主な日本の歯科医院では「破折した歯牙を治療して残す」という概念すらなく、直ちに抜歯の対象となります。
そして抜歯後は義歯、ブリッジ、自家歯牙移植、インプラントなどの方法による補綴が必要になります。

ただし「非常に高度な学問的な知識と、技術」を持っている歯科医師の間では、歯根破折を起こした歯牙でも延命保存の「接着治療」が行われており、多くの成果が挙げられています。

治療の主力となるものは接着材です。亀裂を塞ぐ、いくつかに割れてしまった歯根を再度接着する必要があるからです。したがって生体内でも硬化し、かつ生体為害性のない性質が要求されます。現在、歯科用の接着材はたくさんありますが破折した歯根の延命保存に使用できる接着材は一つしかありません。これは日本で開発されました。一般名「4-META/MMA-TBB」、商品名 「スーパーボンドC&B(以下SBと略します)」です。

4-META/MMA-TBB(スーパーボンド)画像

SBは1970年代に日本で開発され、1982年に発売されています。当時は主に「矯正歯科」用に使用されていました。発売以降このSBの臨床的な用途について様々なトライアルが行われていました。特に故眞坂信夫先生(眞坂歯科医院元院長。眞坂歯科医院は、東京の自由が丘で現在も盛業中です)は接着歯学の第一人者で、様々な用途を開発されていました。1982年にはこの流れの中で、「接着による垂直性歯根破折の保存治療」=「歯根破折の接着治療」にトライされました。これが、「世界で初めておこなわれた歯根破折の治療」です。この一連の臨床成績は1997年時点で論文にまとめられています5)11)

左:故眞坂信夫先生 右:筆者

この報告によれば

1.抜歯せずに口腔内で接着する方法(口腔内接着法)では、症例を限定した場合には92%が10~15年間生存。
2.抜歯して口腔外で接着してから再植する方法(口腔外接着・再植法)では、76%が5~8年間生存。

していました。

詳細は省きますが、眞坂先生が考案されたこの方法は「眞坂の方法」として、病理学的、理工学的な分野のサポートを経て、現在でも応用されている、ゴールデンスタンダードともいえる方法です。

私、長谷川晃嗣は東京歯科大学大学院で眞坂信夫先生の直系の後輩にあたり、多くを学びました。当院でも、この「眞坂の方法」をベースとして、オリジナルでは使用されていない薬剤、材料をさらに加えた方法で、「接着治療」を行っています。

眞坂先生が「臨床的」にノウハウを確立されていった一方で、「病理的」にこれをサポートすべく、北海道大学の菅谷 勉先生のグループが接着治療に関する基礎的および臨床的研究を精力的に進められました。多くの病理切片の考察とともに、臨床成績にも触れられその結果「眞坂の方法」の有用性が明らかになってきました6)9)

これらも詳細は省きますが、
一般的な歯周病とは病理的に異なる、破折歯には全周にわたる歯槽骨の欠損が見られない、歯周病菌によるポケットの形成とはメカニズムが異なる、最終的に破折間隙の除菌を行い、再感染を阻止すれば歯周組織の炎症の改善が期待できることなどを述べています。

さらに臨床成績では
口腔内接着法    :1、2、5年生存率がそれぞれ95、89、71%
口腔外接着・再植法:1、2、5年生存率がそれぞれ98、92、78%

という結果が出ています。

また東京歯科大学の小田豊教授、服部雅之教授らのグループも破折した歯根に対する接着治療について、接着材の種類や、接着方法、接着した歯牙の「機械的」な強さについて一連の研究をしています7)8)
これも詳細は省きますが、
「SBで接着した破折歯と、無傷の歯牙の機械的な強さに有意差はない」10) と結論づけています。
この研究は現在も継続され、2020年の4月(に行われるはずだった=新型コロナウイルス感染予防のために中止=インターネット上でのみ発表)の日本歯科理工学会でも発表されています。

以上をまとめると、

1. 歯根破折歯は最終的に亀裂の隙間の除菌を行って再感染を阻止すれば、歯周組織の炎症の改善が期待できる。
2. 一度亀裂が入った歯でもSBで接着できれば、無傷の歯の機械的な強さと有意差はない

これら学問的に証明された事実によって「歯根破折歯の接着治療」が現実のものとなっています。
これらは必ず患者様方の利益にかなう方法で、「割れているから抜歯です」と言われ
たら、まずは私ども専門医院においでください。

【参考文献】
5) 増原英一.歯科用接着性レジンと新臨床の展開.クインテッセンス出版、2001.
6) 垂直歯根破折の診査・診断・接着治療.日本歯科医師会雑誌;2006:58(12):1200-10.
7) 小田 豊・他.接着修復した破折歯の強度評価—繰り返し衝撃荷重による影響.第58回日本歯科理工学会学術講演会,2011.
8) 小田 豊,服部雅之.破折歯の接着強度に関する研究―接着材の種類と接着強さ.日本歯科産業学会誌. 2011;25(1):76.
9) 菅谷勉ら 日本歯周病学会会誌45、suppl-1,161-161,2003/9抄録
10) 服部雅之・他.接着修復した破折歯根の耐久性評価:支台築造体への繰り返し荷重による影響.日本歯科理工学会誌.2013;32(1):52-8.
11) 眞坂信夫.i-TFC根築1回法による歯根破折歯の診断と治療.医歯薬出版.2016.

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